ゲーテ格言集
一日の授業が終わって、最後の子どもたちが帰り支度をしている頃、DさんとEさんが文庫本を差し出しこう尋ねてきました。
「先生、ここの文章はどういう意味ですか?」
見ると、塾の蔵書の一冊である「ゲーテ格言集(新潮文庫・高橋健二訳)」を開き、あるページを指しています。
Dさんは最近帰りにこの本を読んでいることには気がついていました。その箇所とは・・
われわれの最も誠実な努力はすべて、
無意識な瞬間に成就される。
バラが太陽の輝かしさを認めたら、
どうして咲く気になるだろう?
(「温順なクセーニョン」より)
なかなか解釈が難しいところですが、試みてみました。
「DさんもEさんも、部活で一生懸命努力しているでしょう。どうしてそんなにがんばれるの?」
「・・・」
「先輩のように強くなりたいとか、レギュラーになりたいとか、あの子には負けたくないとかじゃないの?」
「そうかもしれません。」
ゲーテは、『努力は結果で報われるのではないよ』と言いたいんじゃないかな。
つまり試合に勝ったときやレギュラーに指名されたときだけ、これまでの努力の目標が叶ったのではなくて、
毎日の練習の中で毎回毎回努力の代償を受け取っているのよ。」
「でも強くなりたいですし・・・」
「それなら、勝てなかったらそれまでの努力は無駄になるの?」
「いや、そんなわけではありません」
「練習できついことはあるけれど、みんな一緒だという感覚は持てるし、泣いたり笑ったりドキドキしたりその瞬間を楽しんでいると思うよ。」
「わかるような気がします。それでは、後半の『バラが~』の部分はどうですか?」
「もし同じ部活にプロ級の天才選手がいたとしよう。太陽のような存在ね。その選手と自分を比べると、どんなに努力をしても勝てるどころか足下にも及ばないと考えてしまう。そうしたら、どうする?あきらめて部活をやめちゃう?」
「いいえ、続けると思います。だって部活は楽しいですから。」
バラはどんなにがんばっても太陽のようには輝けないけれど、バラらしくは咲けるのね。バラは誰かに評価されたいのではなく、自分が咲きたいから咲く。そしてその瞬間はバラにとっては、幸せなはずよ。」
DさんとEさんの顔つきを見ても、わかったようなわからないような。
これからもまた、解釈の疑問点を尋ねて下さいね。
「ゲーテ格言集」を読み抜こうという気持ちは素晴らしいですよ。
この本の隣には同じ作者の「ファウスト」が並んでいます。
まだ読むには早すぎるですが、題名だけでも記憶しておいて下さい。
今のおすすめは、やはり「若きウェルテルの悩み」ですかね。