Mさんの悩み
卒塾生のMさんが「みんなで食べてください」と菓子折りをかかえて来ました。
「ごぶさたしていましたので、たまには田中先生の顔を見たくなりました」
などと冗談を言いますが、Mさんの顔つきを見ると何か悩みでもあるのでしょう。
Mさんは4人兄弟で、4人とも田中塾に通っていました。
兄弟たちの一通りの近況を聞いた後は、いよいよ本題に触れることができました。
「実は悩んでいることがあるんです。田中先生の意見を伺おうかと思いまして・・・」
「どうしたの?話してごらんよ。」
Mさんのモヤモヤはずばり、
「実は会社を辞めようかと思っているのです。」
大学を卒業し、東証一部上場の小売業の会社に就職しました。
がむしゃらな1年間が過ぎ、立ち止まって足下や周りを見られる余裕が出てきた頃です。
社会人とはいえまだまだ幼い風ぼうを残すMさん。
気持ちが先走り、なかなか冷静には考えられないようなので、いろいろ遠回りをしながら一緒に会社を辞める理由をまとめてみました。
以下がそれです。
・「仕事がきつい」・・・労働時間が長く、休みが不定期になる業種で疲労がたまっているそうです。
Mさんは柔道や合気道の達人で、頑強な身体の持ち主です。
ですので、そうとう参っているのでしょう。
・「人間扱いされていない」・・・上司や同僚などを観察して、
労働者を使い捨てる会社側への批判が大きくなってきました。
・「将来の自分のためにならない」・・・この仕事を続けていても、何のスキルを積むことができないかもしれない。
また、仮にこの会社に定着して、出世をしても自分のやりたいことや結婚生活などに弊害になるのではないか。
以上がMさんの主張です。
田中は「それなら、あなたが会社を辞めてからの計画はどうなの?
違う会社に転職するとか、家の手伝いをするとか、何かの資格を習得するために勉強し直すとか?」
Mさんは「とくに今のところは思い浮かばないです」
卒塾生たちが相談を持ちかけてくることがあります。相談者は、 「どうしたらいいか決断ができないから、田中先生の意見を聞きに来ました」
「田中先生にどちらかを決めてもらいたい」
というように突然現れます。
しかし、よくよく話を聞いてみると、悩んではいるものの、実は自分の中に確かな結論を持っているのです。
その結論に自信がないので、相談という形で田中のところにくるわけです。
反対に本当に悩んでいる間は熟し切っていないので、田中の目の前には現れず、一人で七転八倒しています。
ですから、田中の役割は相談者の決断を読みとり、その決断に自信が持てるような言葉でそっと背中を押すだけです。
Mさんはいっぱい話をした後にこう言いました。
「でも『石の上にも三年』て言いますよね。まだ1年ちょっとしかこの会社を見てないわけですから、三年はがんばっていこうかなとも思うんです」
やはり、Mさんは塾に来る前から自分で考えた結論をもっていました。
田中は「三年間続けるのもいいかもしれないね。
その間にいろいろ状況や気持ちの変化があるかもしれないし。
それまでがんばって、ちぐはぐならそのときまた考えてもいいよね」
「そうですよね。先生もそう思いますよね」ニコッとMさん。
「そうだよ。あなたと同じように思うよ」と田中。
肩の荷が下りたのか、Mさんは「何かありましたら、また来ます」と言い残し、安堵の表情で帰っていきました。
「人生には正解はない」という考え方があります。
田中もそう思います。誰が正解、不正解を判断できるのでしょうか。
もしMさんが「先生、すぐにでも辞表を出し、あたらしい生活を歩んでいきたいです。」
と目を輝かしていたのでしたら、田中はその決断を支持していたでしょう。
ずるいでしょうが、田中は相談者の意見をまとめ、拡声器にように反復しているだけなのです。
さて、Mさん。
たぶんこのブログは見てないでしょうが、一言、添えますね。
「Mさんが選んだ道が大正解です。なぜなら自分で考えつくして、選んだからですよ」