不合格にして下さい
いろいろな受験生の性格パターンがありますが、ある頃から志望校に合格したいけれど、勉強はしたくないという子供が現れてきました。
普通は、自分の目標とする学校に合格するために、遊ぶ時間や睡眠時間を削って日夜努力することが必定です。
しかし、遊びたいし、寝たいし、好きなことはしたい。
さらには合格もしたいという欲張りな子供がしばしば現れてきました。
これも時代の趨勢なのでしょうか。
その志望校選びも、とうてい合格できるはずのない本人の実力以上の高望みをします。
そんな子供のひとりがAさんでした。
Aさんのお母さんの話によると、Aさんはこれまでの生活一般が順調で、何の苦労もなく挫折を知らない子だといいます。
ご家庭では何度も実力相当の学校を選択するように説得されたようですが、聞く耳は持たないそうです。
Aさんはまるでブランド品を購入するかのように、受験というものを勘違いしています。
Aさんの考えでは、自分にふさわしい学校はどこか。
B高校などはレベルが高く人気があるのでそこにしよう。
私なら合格するはずだ、と短絡的に考えています。
しかし一向に合格のため努力をする考え自体がありません。
田中はAさんとAさんのお母さんに再考を促します。
「このままでは合格は無理でしょう。
受験に絶対はありませんので、万が一合格したとしても、学年300人の中でついて行くことは難しいでしょう」と田中は助言します。
楽観的なAさんは「大丈夫ですよ、先生。私はやるときはやりますから。」
田中は「今がそのやるときではないのですか?」
Aさんは、都合の良い色眼鏡で自分や周りを見ています。
現実の自分や状況を直視できないようです。
このままAさんの思うようになったら、末恐ろしいところもあります。
Aさんのお母さんは「先生、この子の将来のためにも不合格にしてやって下さい。
この受験を通じて挫折を経験させておかないと、あとで苦しむのは本人です。」
結果は見事不合格でした。
案外Aさんはその結果にさばさばしていました。
後日談ですが、3年後の大学受験では見事リベンジを果たすことになりました。
Aさんにとっては、高校受験で不合格になったことが良い薬になったようです。